ふと思いついた何かの物語の冒頭。

20年くらい前だろうか。

近所で、まだ一人で歩くこともままならない子とその母親が交通事故で亡くなった。信号付きの交差点を横断中の母子が信号無視のトラックにはねられたのだという。このことは新聞でも取り上げられ、近所ということもあってとても印象深いものだった。

その交差点は、当時小学生だった僕には通学路であったし、中学へ進学後もそこを通っていた。高校、大学と進学しても最寄り駅へ行く時にはそこを通っていたのだが、いつも綺麗な黄色い花が空を向いて置かれていた。今僕は大学を卒業し、特に就職するわけでもなく実家に住み自由気ままに過ごしている。そんな下を向き始めている僕をよそに、花はまだ上を向き続けていた。

ある日、都内へ買い物にでも出かけようと駅へ向かう途中、例の交差点を通ると僕と同じくらいの年齢の女性が座り込んでいた。いつも花が供えられていた位置だ。近づいてみるとどうやら、花を変えているようだ。魔が差したとはこのことだろうか、普段は余計なコミュニケーションを取らないはずの僕だったが、その女性に声をかけていた。

「何をしているんですか?」